サブスクリプションビジネスの貸借対照表に注目してみよう

サブスクリプションビジネスの財務諸表では、一般に将来の収益獲得や解約率を考慮した「管理会計に基づく損益計算」の考え方が目立っていますが、経理担当者は制度会計での貸借対照表の存在を無視することはできません。

サブスクリプションビジネス事業者の貸借対照表にはそのビジネス特徴が表されており、具体的には利用者からサービス代金を前受けでいただくことが多いことから「前受金勘定」が目立ち、利用者獲得のための投資額は将来の収益獲得の基盤であるにもかかわらず「固定資産勘定」にあまり計上されていないといえます。

制度会計の貸借対照表とは

制度会計とは関連法規や実務指針等によってルール化された枠内で財務諸表を作成することです。貸借対照表は会社法によって作成を求められ(会435条第2項、計規59条第1項)、大企業あるいは上場企業等では会計監査人の監査対象となります。

貸借対照表を作成するための実務指針は「企業会計原則」

企業会計原則とは「企業会計の実務の中に慣習として発達したもののなかから,一般に公正と認められたところを要約したものであって,必ずしも法令によって強制されないでも,すべての企業がその会計を処理するのに当たって従わなければならない基準である」としています。

そして貸借対照表の作成目的を「企業の財政状態を明らかにするため、貸借対照表日におけるすべての資産、負債及び資本を記載し、株主、債権者その他の利害関係者にこれを正しく表示するものでなければならない。」と説明しています。

この指針は「慣習として発達したもの」であるため、伝統的な製造業あるいはサービス業に沿った内容になっており、貸借対照表の計上金額は原則として取得原価あるいは時価に基づいています。

前受収益とは

前受収益とは、将来の売上になる経過勘定項目で、企業会計原則注解で具体的に規定しています。

前受収益は、一定の契約に従い、継続して役務の提供を行う場合、いまだ提供していない役務に対し支払を受けた対価をいう。従って、このような役務に対する対価は、時間の経過とともに次期以降の収益となるものであるから、これを当期の損益計算から除去するとともに貸借対照表の負債の部に計上しなければならない。

前受収益とは、将来の売上になる経過勘定項目で、企業会計原則注解で具体的に規定しています。

投資金額について

サブスクリプションサービス以前の利用者は、ソフトウェアを購入しあるいは自社で設備を投資した金額を固定資産として計上し、減価償却を通じて費用処理をしていました。

ですがサブスクリプションサービスを利用することによって多額の投資が不要になり、貸借対照表から固定資産を計上することがなくなりました。

サービス提供事業者は通常、サービス提供のためのソフトウェア開発コストを期間費用として処理していますが、一定の条件の下で資産計上することも認められています。

サブスクリプションビジネス事業者の貸借対照表を見てみよう

アメリカと日本とでは会計基準が異なるものの、サブスクリプションビジネスの本質は同じですので両国の基準に基づいた貸借対照表を見てみましょう。

Netflixの貸借対照表

Netflixは近年、自社制作コンテンツを積極的に推進しています。2020年6月時点では総資産に占めるコンテンツ関連資産(Non-Current Content Assets)が約68%です。前受金勘定(Deferred Revenue)は約3%ですがその残高は売上収益の拡大に伴い増加傾向にあります。

固定資産(Property and Equipment)が総資産に占める割合は約2%で、その主な内訳は主に不動産に関する金額やIT関連費用となっています。IT関連費用は、償却年数を3年から5年の間としています。

出典 Netflix IR Second-Quarter 2020 Financial Results

freeeの貸借対照表

日本の上場企業でfreee(フリー株式会社)の貸借対照表を見るとNetflixと同じ傾向で、売上収益の拡大に伴い前受金の残高も増加傾向にあります。日本の会計ルールでは、ソフトウェアの開発コストは基本的に期間費用として処理されるため、貸借対照表上で表示されている「ソフトウェア勘定」は総資産に対して約4%となっています。

出典 freee IR

経営指標との関係を見てみよう

サブスクリプションビジネスの利用者にとって大きなメリットの一つは、多額のソフトウェア投資あるいは関連設備投資がいらなくなるため、総資産額および総負債額が少なくなります。そのため代表的な採算性指標である、利益額を純資産で除した指標(ROI。Return On Investment)や総資産で除した指標(ROA。ReturnOnAssets)が改善されます。いわゆる「オフバランス効果」です。

また、多額の設備投資を支払うことがなくなるためキャッシュフローが安定します。特に中小企業にとって金融機関に一時的な設備投資資金の借入れを打診することが不要になるメリットは大きいでしょう。

まとめ

制度会計における貸借対照表の主目的は、企業の清算価値を意味しており、会社が倒産等で清算した場合に投資家及び利害関係者がどれくらいの投資額をあるいは債権を回収できるか、に着目しています。 

ですがサブスクリプションサービス事業者の場合、その経営努力(投資)は通常、期間費用として処理されているため将来の顧客を維持しあるいは獲得するための投資額が「無形資産」等として貸借対照表に表示されておらず、企業の清算価値がどれくらいなのかを把握することは非常に困難です。

今後、サブスクリプションサービスがより広く周知され多くの事業者が採用していけば、企業会計原則での「慣習として発達したもの」となり、貸借対照表の役割が変わる可能性があるかもしれません。

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