サブスクリプションビジネスの損益計算書

テクノロジー業界全体でサブスクリプション型のビジネスモデルの人気が高まっています。最近、よく聞くこの“サブスクリプション”モデルで思いつくのは、個人向けではNetflixやSpotifyといったデジタルコンテンツを定額で配信するサービスや、企業向けではMicrosoftやSalesforceがソフトウェアを定額で利用できるサービス、を思い浮かべる人が多いと思います。

このサブスクリプション型のサービスを提供している事業者はどのような損益計算を気にしているのでしょうか?ここではSalesforceの「スタートアップガイド」を参考に従来の損益計算書との違いを説明しながら、サブスクリプションとはそもそも何なのかに触れてみたいと思います。

損益計算書とは

損益計算書とは1年間、3ヶ月間、1ヶ月間と期間を区切って、その期間内での企業の活動の結果を社内外関係者やステークスホルダーに報告することを目的した計算資料のことです。その様式は他社との比較可能性を考慮して画一的な様式でとてもシンプルな項目です。一般的には「売上高」「売上原価」「販売管理費」そして「営業利益」と続きます。

あるソフトウェア販売企業の損益計算書を例に説明してみましょう。まず顧客に対するソフトウェア(ライセンス)の販売は「売上高」に該当します。その販売したソフトウェアを製作するためにかかったコストは「売上原価」です。この他に営業活動の費用、マーケティングコスト、人件費や家賃等を「販売管理」に含めて、これらコストを売上高から差し引いた残りを「営業利益」と呼びます。

そして、この営業利益がいくらになったのか、あるいは営業利益を売上高で割った「営業利益率」は高いのかどうか、などが一般的な「経営指標」とされています。もちろん、営業利益の金額が大きいほど、営業利益率が高ければ高いほど良いのですが、業種・業態によって異なりますので一概には言い切れません。

制度会計と管理会計の違いとは?

損益計算書は関連法令が求める「制度会計」による過去の数値報告です。経営者が知りたいのは損益計算書の数値よりむしろ経営目的に沿った情報です。会社に何が起きているのかそれがどのような原因なのか把握する目的の資料を「管理会計」と呼びます。

「管理会計」は「制度会計」を基礎としながらも多目的で柔軟な報告を可能としていて、企業・業種によりその様式は多様です。報告の対象期間も自由ですので1週間単位もあれば、5年間を前提とする場合もあるでしょう。

「儲かっている」とはどういうことか?

経理担当者からすればこれが「売上高」のことなのか、「営業利益」のことなのか、あるいは前年と比較して「増収」にあるのかとても曖昧な定義といえますが、大きな意味合いとして企業が(売上高や営業利益が)順調な発展にある、ということであれば概ね一般的な理解と経理担当者の理解は一致するでしょう。ですが、仮に「増収」だった場合、顧客数が増えたからなのか、それとも商品の値上げ効果なのか等は「損益計算書」では具体的に説明することができません。

サブスクリプション型ビジネスの損益計算書

サブスクリプション型ビジネスとは

いまや多くの消費者はオンライン上でのコミュニティやサブスクリプションを軸とする経済圏に参加し始めています。

例えば定額のデジタル会員になることで最新トレンドの洋服を利用でき、子供の年齢に合わせたおもちゃを受け取り、あるいは自動車をいつでも借りることが可能になりました。

一般的に「サブスクリプション」とは料金体系のことで、顧客と企業はメンバーシップ(会員)の関係になります。この会員制ビジネスの成功は、顧客との「長期的な関係」に焦点を当てています。つまり消費者にとって利用しやすいサービスを提供し続ける企業は、顧客と長期的で収益性の高い関係を構築できるようになるわけです。

従来のセールス型モデルとサブスクリプション型モデルでの「損益計算書」の違いとは

前述のソフトウェア(ライセンス)の販売モデルでは、新しい顧客を探し、商談を成立させ、次の見込み顧客に進むことを繰り返していくことが一般的です。その一方でさらなる売上アップのためには既存顧客が次の契約を更新するように継続的な関係を築く必要があります。

従来の「損益計算書」の考え方に照らすと、その計算期間内にいかにしてソフトウェアを販売したかが「売上高」に影響します。そして継続的な関係を維持するためにテレビコマーシャルなどの宣伝活動、家電量販店等での販促活動を積極的に展開する必要があります。

一方、SaaSなどサブスクリプション型サービスを提供する場合、企業側は顧客が契約を継続してくれる限り安定的な収入が見込めます。また、顧客との関係を直接構築できるので、購買履歴を確認してさらなるマーケティングに活用できるなどの別のメリットもあります。

ただし従来の「損益計算書」の考え方で見ると、通常はその計算期間内に獲得した定額利用料が「売上高」として計上される一方、そのサービスを提供するために開発したソフトウェアやコンテンツ制作等の多額のコストは初期の費用として計上される場合があります。そのため最初の期間の「損益計算書」を見ると、売上高は少なく、コストは多額になっているように見えます。

ですが、定額利用料は翌年度以降も「売上高」として計上されるため、数年後にはその累積売上高がソフトウェアの開発コストを上回るようになります。

このようにサブスクリプション型サービスは長期的な収益獲得に特性がある事業モデルです。そのため実際の経営管理では、顧客の獲得率や維持率など「損益計算書」の売上高からは直接読み取ることができない指標をしっかりと見ることが大切です。

例えば当年度末近くに新規顧客数が大きく伸びた場合でも、その収益獲得の効果(売上高)は次年度以降の「損益計算書」に現れますので、当年度の売上高と当年度の顧客数を単純に比較してもあまり有意な判断材料にはなりません。

2021年サブスクリプション型ビジネスにおける損益計算書が変わります

2021年4月から損益計算書での売上計上に関する考え方が大きく変わろうとしています。これまでは売上をどのように計上するかについて、「売上高の認識は、『実現主義の原則に従い』、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る」という説明があるだけでした。

ですが企業会計基準委員会(ASBJ)は2018年3月に公開した「収益認識に関する会計基準」を制定し、2021年4月から適用開始が予定されました。

例えばSaaSのようにソフトウェアを120万円で3年間の契約期間(年単位)で提供している場合、今年の売上はその契約期間に応じて分割した40万円を計上することになるでしょう。もし、120万円の契約にディスカウントが10%付いたならば、今年の売上は(120万円-120万円×10%)を3年で除した36万円となります。もちろん10%を差し引いた108万円が最初の1年目に入金されますが、36万円をこえる部分は「前受金」となります。

顧客ファーストでLTV(顧客生涯価値)を最大化する

サブスクリプション型サービスは、一定の料金を払うことで期間中に何度でもサービスが受けられるます。また、映画や音楽のようなデジタルコンテンツでは、続けて視聴しているうちに、自分の好みに合うかもしれない「レコメンド」機能による別のサービスが表示されるようになり、新しい選択肢が広がっていきます。自分に合わなければ契約を解除できるのもメリットといえますね。

ソフトウェア・ライセンスの利用ではどうでしょうか。従来のパッケージ型では例えばエクセルのバージョンアップがあるたびに新しいものをわざわざ買わなければなりませんでした。一方サブスクリプション型サービスでは、顧客が気づかないうちに最新版のアップデートが展開されるようになるので、バージョンの新しい・古い、といった煩わしさから解放されるのもメリットでしょう。

未来の売上を予測するために

ARR(Annual Recurring Revenue)を理解する

サービス提供企業は月額単位あるいは年額単位などでユーザーから料金を収入できることで、他の業態に比べて将来期間での収益を予測しやすくなるという特徴があります。

そのため、年間の定期収益(ARR:Annual Recurring Revenue)と呼ばれる、「現在時点から見た1年先の見込み収益」が重要な業績管理指標として採用されます。

チャーン率と継続率

一般的な商取引で最も重要な活動は新規顧客の獲得と販売です。ですがデジタル社会におけるメンバーシップ型の取引で最も適した経営指標は、メンバーの解約を示すチャーン(Churn)率あるいは継続(Engagement)率になります。

顧客から長い期間(できれば永続的に)定期利用料をいただくためには、契約した顧客との関係を継続してもらえるよう、顧客ひとりひとりに合った無駄のないプランを提供していく必要があります。

Googleはクラウド上でのデータ保存サービスとして、お試しとして15GBまで無料です。その後は使った分だけ従量課金されていきます。例えばスマホにある写真・動画をこのクラウドに保存しておけば万一の時に安心ですので最初は少しのデータを試しに保存してみて、そのうち全てのデータを保存していくように誘導するわけです。すなわち、無料の「お試しプラン」から体験してもらい、基本的なサービスの「ベーシックプラン」へ移行してもらい、ヘビーユーザーには「プレミアムプラン」を用意するといった段階設定とすることで、顧客に合ったプランを提供しています。

定期利益(RPM:Recurring Profit Margin)

サブスクリプション型サービスの管理会計では継続利用を前提とした定期収益から解約分を差引き、売上原価などのコストを差引くことで定期利益を求めます。

  1. +ARR(定期収益)
  2. ▲Churn(解約分の収益)
  3. ▲売上原価、人件費や家賃などの管理費、研究開発費
  4. 定期利益(RPM)・・・上記(1)から(3)の差し引き

なぜ研究開発費が3.に含まれているのでしょうか。サブスクリプション型サービスでは新規顧客獲得よりも顧客維持によるLTVを重要としています。そのため顧客維持のために研究開発を行い継続的なサービス品質向上(定期的なアップデート)を行う必要があるからです。

成長効率指標(Growth Efficiency Index)

成長効率指標とは、事業としての成長戦略、投資を決定する際に重視される指標の1つです。サブスクリプション型サービスではLTVを重要としていますので定期利益は既存顧客からもたらされた利益として管理され、新規顧客を獲得するための販売やマーケティングのコストは定期利益の範囲で適切にコントロールされることになります。これらのコストが新規の年間定期収益(New ARR)をどれだけ稼ぐことができたのか、という視点です。最近ではこの指標の計算式を「販売・マーケティング費」を「新規年間定期収益(Net ARR)」で除して求めるようになりました。効率の良いサブスクリプション型サービス企業であればこの結果が1を下回るように(獲得する収益よりもコストが下回るように)設定します。

次の「サブスクリプションビジネスの損益計算書」では営業・マーケティング費(30)÷ 新ACV30でちょうど1となります。

では具体的にSalesforce社がSaaS創業者向けスタートアップガイドで説明している管理会計を見てみましょう。

※「SaaS創業者向けスタートアップガイド」より

表の「経常利益」とは、前述の「定期利益」に相当します。「期末ARR」とは、「年間経常利益」から「チャーン」を差引きし、「新ACV」を加えた金額で、来期の「年間経常利益」に該当します。期首の経常利益よりも期末ARRが多くなっていることが大切です。

まとめ

サブスクリプション型サービスの損益計算書(管理会計)を理解して活用しよう

サブスクリプション型サービスの損益計算書の考え方は定期収益(ARR)を軸にしており、いかにして顧客を獲得し永続させていくかに着目している点が、従来の制度会計での損益計算書と異なります。

最初の頃は定期収益が制度会計の「売上高」と合致しないことに違和感があるかもしれませんが、慣れてくると企業のコスト構造は既存顧客のLTVに向けられているのか、それとも新規顧客になっているのかが見ええてくるようになるでしょう。繰り返しになりますが「価値の高いサブスクリプション契約顧客が毎月どれくらいいるのか?」を見ていくことが重要なのです。

サブスクリプション型ビジネスモデルで有名な企業の成長事例

前述のNetflixは米国内でDVDのレンタルからスタートしましたが、今ではストリーミングサービスを世界中に展開しています。The New York Timesによると直近2020年第1四半期では15.6百万人の新規顧客を獲得し、総顧客数は何と182.8百万人になりました。世界最大のエンターテインメントコンテンツプロバイダーです。

MicrosoftはCD-ROM等を介した1回限りのライセンス販売から、毎月のサブスクリプション型サービスに移行したことで、販売の裾野を大きく拡大させることに成功しました。2017年当時で既に毎月1.2億人のアクティブユーザーがOffice365を利用し、同時に全てのユーザーに同じサービス(プログラムのクオリティ)価値を提供することができるようになりました。海賊版や違法コピープログラムの悩みが減ったメリットもあるようです。

参考資料


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